Thursday, June 07, 2007

ささやかな手柄と重大なミス

 
ある日,ジョンのご主人が散歩の途中で腕時計を落としてしまいました.
それを聞いたジョンは,何とか役に立ちたいと辺りを調べ始めました.

匂いを辿るとすぐに,近くの公園に落ちていたことがわかりましたが,肝心の時計は見知らぬ男が持ち去った後でした.
男の匂いは公園横の停留所で消えていて,どうやらそこからバスに乗ったようでした.
夕食まで時間があったので,ジョンはバスのタイヤ跡を追ってみることにしました.
ところがそれは延々と続き,バスを降りた男の足跡を見つけたのは,何十キロも離れた港町でした.
そこは人や魚や磯の匂いが入り乱れていて,追跡は困難でしたが,一心不乱に調べると何とか行動を辿ることができました.
男はすでに出航した船に乗って,海外に逃れた後だったのです.

さすがにどうしようかと迷ったジョンでしたが,一瞬,時計を持って帰ったときのご主人の笑顔が脳裏に浮かぶと,勇気を振り絞って海に飛び込みました.

2ヵ月後,とうとうジョンは太平洋を泳ぎ切り,とある南米の港に停泊している船に辿り着きました.
男はそこで船から降りたようです.
その港は汚く物騒な町で,タチの悪い酔っ払いや悪ガキどもを避けながら,ジョンは懸命に足取りを追いました.
そしてついに,男が出入りする建物を突き止めました.

勇んで部屋に飛び込むと,そこは麻薬の取引場でした.
急にドアが開いたので部屋はパニックになり,ジョンは銃で武装した35人の荒くれ男たちと戦う羽目になってしまいました.
慣れない乱闘に戸惑いながら34人をノックアウトしたジョンでしたが,運の悪いことに,取り逃がした一人がまさに腕時計を拾った男でした.

男は世界を股にかける麻薬の運び屋だったのです.
その後もジョンは男を追いかけ,2つの海と3つの大陸を横断し,3000m級の山を何度も越え,北極点を踏みジャングルを抜け砂漠を渡りました.
その間,麻薬組織の紛争に巻き込まれ,3つのシンジケートと2つのテロ集団と1つのヤクザを壊滅させました.

そのおかげで職を失なう羽目になった男は,イスタンブールの小汚い質屋で腕時計を売り払いました.
ジョンは時計を返してくれるよう頼みましたが,強欲な質屋の主人は首を縦に振りません.
それでも粘り強く交渉した結果,1年間の無償労働の後,ついに腕時計を取り戻すことができました.

そしてジョンは帰路につき,さらに2つの大陸と海を横断し,やっとのことで故郷の街に辿りつきました.
さすがに疲労で倒れそうでしたが,懐かしい家の垣根が見えたとたん,ジョンは思わずワンと一声吠えてしまいました.
そのままヨロヨロ近づいていくと,開いた玄関の向こうにご主人の姿が見えるではありませんか!
あまりの嬉しさに,足は勝手に駆け出しています.
そしてそのまま玄関に駆け込もうとしたとき,ご主人が顔をしかめて言いました.

「ノー」

ジョンの足が汚れていたのでした.
 
おわり

 
**りん大姉の耳うち**

あたしがいなくなってちょっとは成長するかと思ったけど,まろは相変わらずこんなこと書いてるのね.
何というか「救われない魂」なのよね,彼って.

作品?

そーねー,着想も風刺もまぁまぁだけど,唯一残念なのが「おもしろくない」ってとこかしら.
はい,次回頑張りましょうね.