元始,犬は実に太陽であった.真正のぱぁとなぁであった.
今,犬は月である.人に依って生き,人の命によって動く,病人のような蒼白い顔の月である.
さてここに犬は自立の初声(うぶごえ)を上げた.
現代の日本の犬がその頭脳と四肢によって始めて自立の初声を上げた.
一介の家庭犬のなすこと,今はただ嘲りの笑を招くばかりである.
私はよく知っている.嘲りの笑の下に隠れたるあるものを.
そして私は少しも恐れない.
しかし,どうしよう同胞みずからがみずからの上に新たにした隷従と束縛の惨(いた)ましさを.
人と犬とはかくも窮屈なものだろうか,
否々,真正のぱぁとなぁとは――
私ども犬はまた一頭残らず潜める名犬だ.名犬の可能性だ.
可能性はやがて実際の事実と変ずるに相違ない.
ただ一片のとりぃつに現(うつつ)を抜かし,偉大なる能力をしていつまでも空しく潜在せしめ,ついに顕在能力とすることなしに生涯を終えるにはあまりに遺憾に堪えない.
私どもは隠されてしまった太陽を今や取り戻さねばならぬ.
「隠れたる才能を,潜める名犬を発現せよ」 こは同胞たちの内に向っての不断の咆哮,押えがたく消しがたき遠吼え,一切の雑多な犬狼本能の統一せられたる絶対唯一の最終本能である.
この咆哮,この遠吼え,この最終本能こそ熱烈なる精神集注となるのだ.
そしてその極まるところ,そこに名犬の高き王座は輝く.
私どもをして熱烈なる祈祷を,精神集注を不断に継続せしめよ.
かくてあくまでも徹底せしめよ.
潜める名犬を産む日まで,隠れたる才能の輝く日まで.
ああ,我が故郷の荒野よ,絶対のあるふぁりぃだぁよ.
自からの溢れる能力と,情愛によって群を照覧し,全人類を魅了する犬は天才なるかな.
真正のぱぁとなぁなるかな.
その日私どもは,一切の本能を解き放ち,そしてわがものとして再統合する.
その日私どもは唯我独存の家庭犬として,わが踵もて人間社会に自存自立する反省の要なき真正のぱぁとなぁとなるのである.
そして孤独,寂寥,野良のいかに楽しく,豊かなるかを知るであろう.
私どもは日出づる国の東の水晶の山の上に目映ゆる黄金の犬小屋を営もうとするものだ.
同胞よ,汝の背中を擦るに常に金色の円天井を撰ぶことを忘れてはならぬ.
よし,私は半途にし斃るとも,よし,私は野良となり官警の縛につこうとも,なお麻痺せる前手を挙げて 「犬たちよ,進め,進め,」 と最後の息は叫ぶであろう.
***
「あなた~来て来て,ジョンが寝言を言ってるわよ. カワイ~!」
**まろの告白**
出典は 「元始,女性は実に太陽であった」 で有名な平塚らいてう氏による 「青踏」 創刊の辞(を適当に並び替えたもの).
みっともないことですが,切れば血が吹き出るような文章を読むたびに涙が滲んできます.
破廉恥にもそんな文章までパロってしまう自分は,もはや人の道を踏みはずしつつあるのか...
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